ノートPCの海外への持ち出し

1.相談内容 

株式会社Xは、WEBコンテンツの制作を業としているが、自社が受注した事務作業をインドネシアに拠点を置くパートナー企業Yに下請けに出すことになった。クライアントAからセキュアな環境での作業が求められたため、Xは自社内で用いているものと同様のセキュアな仕様のノートPCを、必要台数、Yに貸与して、それで作業を行ってもらうことになった。法的な問題はあるか。

法務部員をしていて、事業部門から信頼されるようになると、何が問題かわからないが念のため問題がないか教えてくれ、という相談を受けるようになります。法学部や司法試験で嫌というほど問われた、法的問題点を検討せよ、というのは、実は極めて実務的な出題であったことがわかります。 

講師はこの相談を受けるまで問題の所在に全く気づけなかったのですが、相談を受ければ調べるしかありません。 

念のため、「ノートPC」「海外」「貸与」「手続」などのワードで検索しました。すると、ノートPCは「貨物」にあたり、海外への貸与は「輸出」にあたるので、外国為替及び外国貿易管理法上の問題が生じることがわかりました。 

法務部員の仕事をしていると段々物知りになっていきます。 

2.関連する条文

外国為替及び外国貿易法

(輸出の許可等)
第四十八条 国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。

輸出貿易管理令

(輸出の許可)
第一条 外国為替及び外国貿易法(中略。以下「法」という。)第四十八条第一項に規定する政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第一中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。
2 法第四十八条第一項の規定による許可を受けようとする者は、経済産業省令で定める手続に従い、当該許可の申請をしなければならない。

(特例)
第四条 法第四十八条第一項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。…
 三 別表第一の一六の項に掲げる貨物(外国向け仮陸揚げ貨物を除く。)を同項の下欄に掲げる地域を仕向地として輸出しようとする場合であつて、次に掲げるいずれの場合にも(別表第三の二に掲げる地域以外の地域を仕向地として輸出しようとする場合にあつては、イ、ロ及びニのいずれの場合にも)該当しないとき。
  イ その貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定めるとき。
  ロ その貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがあるものとして経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき。
  ハ その貨物が別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物(核兵器等に該当するものを除く。ニにおいて同じ。)の開発、製造又は使用のために用いられるおそれがある場合として経済産業省令で定めるとき。
  ニ その貨物が別表第一の一の項の中欄に掲げる貨物の開発、製造又は使用のために用いられるおそれがあるものとして経済産業大臣から許可の申請をすべき旨の通知を受けたとき。
 四 別表第一の五から一三まで又は一五の項の中欄に掲げる貨物であつて、総価額が百万円(別表第三の三に掲げる貨物にあつては、五万円)以下のもの(外国向け仮陸揚げ貨物を除く。)を別表第四に掲げる地域以外の地域を仕向地として輸出しようとするとき(別表第三に掲げる地域以外の地域を仕向地として輸出しようとする場合にあつては、前号のイ、ロ及びニのいずれの場合にも(別表第三の二に掲げる地域(イラク及び北朝鮮を除く。)を仕向地として輸出しようとする場合にあつては、同号のイからニまでのいずれの場合にも)該当しないときに限る。)。

(税関の確認等)
第五条 税関は、経済産業大臣の指示に従い、貨物を輸出しようとする者が法第四十八条第一項の規定による許可若しくは第二条第一項の規定による承認を受けていること又は当該許可若しくは承認を受けることを要しないことを確認しなければならない。

別表第一(第一条、第四条関係)

貨物地域
電子計算機若しくはその附属装置又はこれらの部分品(四の項の中欄に掲げるものを除く。)であつて、経済産業省令で定める仕様のもの全地域

別表第三の二(第四条関係)

 アフガニスタン、中央アフリカ、コンゴ民主共和国、イラク、レバノン、リビア、北朝鮮、ソマリア、南スーダン、スーダン

別表第四(第四条関係)

 イラン、イラク、北朝鮮

輸出貨物が核兵器等の開発等のために用いられるおそれがある場合を定める省令

輸出貿易管理令別表第一及び外国為替令別表の規定に基づき貨物又は技術を定める省令

第七条 輸出令別表第一の八の項の経済産業省令で定める仕様のものは、次のいずれかに該当するものとする。

長い時間をかけて関係しそうな法令を読み込んだ結果、ノートPCが軍事転用されうる場合に問題となることがわかり、ノートPCの性能が軍事転用できる水準にない場合や、金額が安い(性能が低いと推測される)場合には、許可は不要であり、軍事転用される可能性が高い国に対しては、許可が不要となるケースが制限される(許可が必要になりやすい)ことがわかりました。 

インドネシアは軍事転用される可能性が高い国ではないので、性能が軍事転用できる水準にないことか、金額が安いことを示せれば、許可は不要という結論になります。 

また、許可の要否を確認するのは税関であり、税関において、性能が軍事転用できる水準にないことか、金額が安いことを示す必要があることもわかりました。 

3.実務的な対応 

税関の実務を調査したところ、非該当証明書(許可が必要となる対象ではないことの証明)の提示を求められる場合があることがわかりました。 

非該当証明書の取得方法を調査したところ、書式が経済産業省において公開されているとともに、各PCメーカーが、自社製品についての非該当証明書をWEBで公開していることもわかりました。 

そこで、WEBから非該当証明書を取得するとともに、運送業者にノートPCとともに交付することにしました。 

4.法務部員の役割

法務部員の仕事は解決手段の提示です。法令調査はそのための手段に過ぎません。 

適用され得る法令と適用除外の条件を調査するだけでなく、実務における適用除外の証明手段まで調査しなければ、解決手段の提示とはなりません。 

この事例を通じて、事業部門から信頼されることが問題の発見の端緒となること、法令調査を通じて法令の趣旨(ここでは軍事転用の防止)を読み取ること、法的な結論だけでなくその実現手段(ここでは税関で示すための非該当証明書の入手手段)も調査すること、を学んでください。 

5.その他

多くの企業では、社用PCはリース品です。大手のリース業者である場合、インドネシアにも拠点があり、そこから同等品を直接リースできる場合があります。そうなれば国境をまたがず輸出にあたらないので、法が適用される余地はなくなり、最も簡便な解決となります。そのような知恵を出せることも法務の力量です。 

ただし、講師が経験した実際の案件では、ノートPCにセキュアな設定を施してから輸出していたのでその手段が取れないとともに、当該設定に用いるソフトウェアについても非該当証明が必要となりました。