1.ワンチャンス主義とは
著作権法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 実演 著作物を、演劇的に演じ、舞い、演奏し、歌い、口演し、朗詠し、又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で、著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)をいう。
四 実演家 俳優、舞踊家、演奏家、歌手その他実演を行う者及び実演を指揮し、又は演出する者をいう。
十三 録音 音を物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。
十四 録画 影像を連続して物に固定し、又はその固定物を増製することをいう。
(録音権及び録画権)
第九十一条 実演家は、その実演を録音し、又は録画する権利を専有する。
2 前項の規定は、同項に規定する権利を有する者の許諾を得て映画の著作物において録音され、又は録画された実演については、これを録音物(音を専ら影像とともに再生することを目的とするものを除く。)に録音する場合を除き、適用しない。
実演家はその実演を録音録画する権利を持っています。そして、録音録画には増製も含みます。
しかし、許諾を得て録音録画された映画の著作物については、実演家の録音録画の権利が及ばず、映画の出演した場合、その映画がDVD化されても権利は及ばないことになります。これをワンチャンス主義といいます。
(放送権及び有線放送権)
第九十二条 実演家は、その実演を放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 放送される実演を有線放送する場合
二 次に掲げる実演を放送し、又は有線放送する場合
イ 前条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録音され、又は録画されている実演
ロ 前条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの
(送信可能化権)
第九十二条の二 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。
2 前項の規定は、次に掲げる実演については、適用しない。
一 第九十一条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得て録画されている実演
二 第九十一条第二項の実演で同項の録音物以外の物に録音され、又は録画されているもの
ワンチャンス主義は、放送にもインターネット配信にも及びます。映画はテレビ放送できるしストリーミング配信もできるということです。
2.ワンチャンス主義の限界
著作権法
(著作物の利用の許諾)
第六十三条 著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる。
4 著作物の放送又は有線放送についての第一項の許諾は、契約に別段の定めがない限り、当該著作物の録音又は録画の許諾を含まないものとする。
(著作隣接権の譲渡、行使等)
第百三条 第六十三条…の規定は実演…の利用の許諾について、…それぞれ準用する。
実演家が放送について許諾しても、別段の定めがない限り、録音録画の許諾は及びません。
契約書がない状態でテレビ番組に出演すると、放送することは許可したが、録音録画は許可していないということになる可能性が高いです。これが、人気番組なのにDVD化されないということが数多く起こる原因です。
(放送等のための固定)
第九十三条 実演の放送について第九十二条第一項に規定する権利を有する者の許諾を得た放送事業者は、その実演を放送及び放送同時配信等のために録音し、又は録画することができる。ただし、契約に別段の定めがある場合及び当該許諾に係る放送番組と異なる内容の放送番組に使用する目的で録音し、又は録画する場合は、この限りでない。
放送事業者には、放送のための録音録画が許可されています。そのため、実演家から放送の許諾だけを受けた場合でも、フィルムを回すことに問題はありません。
もっとも、別の番組にそのフィルムを流用することはできません。これが、お蔵入り映像が生じる原因です。
3.誰がテレビ番組を作ったか
ところで、テレビ番組には、テレビ局が制作するものの他に、番組制作会社が制作するものもあります。これに出演した場合、番組制作会社は映画制作会社と同様の立場にあるのだから、契約書がない場合も映画に出演した場合と同様の録音録画の許諾がなされている、という主張もあります。
番組制作会社はそもそも放送の許諾の対象ではないので、番組出演イコール録音録画の許諾だという考え方は法的には説得力を持ちます。しかし、実演家は、誰が番組を作っているかはあまり意識していないという問題があります。だからこそ、芸能事務所の法務部員としてはチェックすべきポイントです。
4.YouTube動画
映画、テレビ番組に加えて、YouTube動画に出演する際にも実演者の権利は問題になります。
(著作物の利用の許諾)
第六十三条
6 著作物の送信可能化について第一項の許諾を得た者が、その許諾に係る利用方法及び条件(送信可能化の回数又は送信可能化に用いる自動公衆送信装置に係るものを除く。)の範囲内において反復して又は他の自動公衆送信装置を用いて行う当該著作物の送信可能化については、第二十三条第一項の規定は、適用しない。
(著作隣接権の譲渡、行使等)
第百三条 第六十三条…の規定は実演…の利用の許諾について、…準用する。この場合において、第六十三条第六項中「第二十三条第一項」とあるのは「第九十二条の二第一項…」と…読み替えるものとする。
かなりわかりにくい条文ですが、YouTube以外での配信が予定されていないYouTube動画に出演した場合、YouTube以外の場所でのインターネット配信は許されないということです。
YouTube動画のDVD化については条文がありませんが、YouTube動画も映画の著作物であり、放送の場合と異なり録画録音の許諾について別段の定めを求める条文がないため、ワンチャンス主義がそのまま適用される可能性があります。
法務部員としては、よくわからないならば契約書で明記しておけ、というシンプルな結論になります。
5.なぜ議論を学ぶのか
法務部員を目指す方は法律議論が好きなので、ワンチャンス主義についての議論を楽しいと感じる方が多いと思います。しかし、法務部員の仕事は法律議論ではありません。議論がありうる場所を察知して、契約書をもって議論を発生させないことが法務部員の仕事です。この態度は予防法務と呼ばれることもあります。かなりの文字数で面倒くさい話をしたのは、きちんと契約書の内容を詰めておかなければ面倒くさいことになるとお伝えするためでした。