不動産賃貸借の注意点

1.メジャーだが法的な特殊性が強い 

不動産賃貸借契約はメジャー分野ですが、法律上、特殊な扱いを受けます。衣食住という言葉がありますが、住を担う不動産は、人間の生活にとって不可欠な要素であると考えられているからです。 

住居だけでなく、オフィスや店舗も生活の糧を生み出す拠点となるので、生活にとって不可欠です。だから借地借家法は、賃借人に強力な法的保護を与えています。 

継続的な契約であることも不動産賃貸借の特徴です。月額賃料250万円の飲食店舗を10年間貸せば、総額3億円の取引になります。20年30年と続く契約になるかも知れません。契約一つ一つが非常に重い意味を持つため、法務部員としては、特に慎重に扱わなければならない契約類型です。 

ここでは、賃貸人側の法務部員になった想定で注意点を検討します。 

2.反社会的勢力排除条項

賃借人が反社会的勢力であっても、それだけでは債務不履行にはなりません。反社会的勢力が入居してしまえば、他の入居者はテナントを離れていきます。不動産賃貸借契約は、反社会的勢力排除条項を設ける必要性が最も高い契約類型です。

3.学生向けアパートと自動更新条項と更新料と法定更新 

不動産と言っても色々とありますが、この項では学生向けのアパートを考えます。 

学生向けのアパートでは、4月から学生たちが入居して、3月に出ていきます。入居者が入れ替われば最低でもクリーニング、場合によってはクロスやフローリングの張替えが発生するので、年度替わりはタイトなスケジュールになります。 

一番困ってしまうのが半端な時期に出ていかれてしまう事です。大学4年の前期で単位を取り終えたからと7月に出ていかれては、下手をすれば翌年4月まで空き部屋になってしまいます。ならば、7月を待たずに3月に出て行って欲しい、そのためにはどうするか知恵を巡らせることも法務部員の職責です。 

本契約期間満了の1か月前までに当事者のいずれからも相手方に対して契約終了の通知がなされない限り、本契約は同一条件にて1年間延長されるものとし、以後も同様とする。

賃借人は、契約更新時に、契約更新料として、賃料の1か月分相当額を支払う。

このように自動更新条項をつけた上で契約更新料の特約をつけておけば、賃借人は、契約更新料を惜しんで契約を延長せずに退去する方向に傾くでしょう。 

なお、自動更新条項をつけずに契約期間が満了した場合、法定更新されることになりますが、法定更新の場合には契約更新料の特約は無効とされる可能性が高いです。 

4.事業用物件とフリーレントと途中解約の違約金特約と新入居者の受け入れ 

事業用物件では、フリーレントと呼ばれる入居当初の賃料無料期間が付されることがよくあります。事業用物件ではスケルトンと呼ばれるコンクリート打ちっぱなしの状態で知貸借契約が締結されることが多いのですが、その場合、入居に際して内装工事が必要となります。内装工事中は移転前のオフィスを借り続けることになるので、賃料の二重払いが発生してしまいます。そこで、フリーレントと呼ばれる賃料無料期間を設定することで、入居者を募集する戦略がよく行われます。 

本契約第●条の定めにかかわらず、●年●月●日から●年●月●日までの間は、賃料の支払いを免除する。ただし、同期間における共益費の支払い義務は免れないものとする。

フリーレントを設定したにもかかわらず、すぐに退去されてしまうと大損です。そこで、一定期間分の賃料収入は確保できるような工夫が必要です。 

賃借人は、契約期間の開始日から1年以内に本契約を解約することができない。ただし、解約申し入れの日から契約期間の開始日から1年が経過する日までに発生する賃料を賃貸人に支払う場合は、この限りではない。

こうすれば、すぐに出ていかれても、一定の賃料収入が確保できます。なお、1年以内に出ていかれた場合で、すぐに次の入居者が決まった場合、焼け太りできます。 

違約金を定額とする場合もあります。

賃借人が、本契約を、契約開始日から1年以内に解約した場合、賃借人は、賃貸人に対して、違約金として金●円を支払うものとする。 

2 本契約が、契約開始日から1年以内に賃借人による債務不履行により解除された場合、賃借人は、賃貸人に対し、賃貸人が被った損害の賠償に加えて、違約金として金●円を支払うものとする。 

この場合、違約金はフリーレント期間の賃料相当額を超える金額を設定することが通常です。 

5.定期借家契約

借地借家法 

(建物賃貸借の期間) 
第二十九条 期間を一年未満とする建物の賃貸借は、期間の定めがない建物の賃貸借とみなす。 

(定期建物賃貸借) 
第三十八条 期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、…契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。 
3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。 
5 建物の賃貸人が第三項の規定による説明をしなかったときは、契約の更新がないこととする旨の定めは、無効とする。 
6 第一項の規定による建物の賃貸借において、期間が一年以上である場合には、建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。 

定期借家契約は更新がない契約です。定期借家契約以外は更新拒絶の正当事由がないと法定更新されてしまいますが、それがないので、期間が終われば契約は終わります。建替えや売却を想定している場合、これは非常に便利です。 

実務上のポイントは、「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」における「等」です。公正証書でなくとも契約締結できます。 

また、1年未満の契約も可能です。 

1年以上の契約の場合、通知期間中の終了通知が必要で、この発出を忘れないように管理する必要があります。 

いずれも基礎知識ですが、非常に便利な契約類型なので、改めて確認しました。 

6.原状回復義務と敷金の設定 

民法 

(賃借人の原状回復義務) 

第六百二十一条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。 

不動産賃貸借における最重要条文です。住居であっても、室内で煙草を吸われてしまうと、クロスの総張り替えが必要になりますし、店舗であれば大規模な内装工事が行われるので、原状回復工事費用は驚くほど高額になります。そのため、敷金の設定が重要になります。 

敷金は、賃料不払いの補填だけでなく、確実な原状回復の担保の意味も持ちます。最も大規模な内装工事が行われる飲食店舗の場合には、賃料の1年分以上を設定することも珍しくありません。 

敷金は預り金です。賃貸人には、高額の預り金を預かるに足る信用が求められます。 

法務部員として契約書を作成・添削する際には、起こり得るお金の動きをイメージするようにしてください。その姿勢がトラブル発生時への備えになります。 

7.居抜き物件 

居抜き物件という類型があります。本来ならば、現在の賃借人が原状回復してから、新たな賃借人が内装工事を行うところですが、現在の内装や設備が新たな賃借人にとって有益ならば、新旧賃借人に無駄な負担が生じることになります。そこで、新旧賃借人の間で、現在の内装と設備についての売買契約を締結するとともに、現在の賃借人が負っていた原状回復義務を新たな賃借人が引き継ぐ、ということが行われます。これを居抜き物件といいます。 

居抜き物件は、理屈の上では単純なのですが、書面化すると扱いが難しく、特に、新たな賃借人に原状回復義務を具体的に把握させるための図面の添付などの工夫が必要となります。 

8.個人根保証 

民法 

(保証人の責任等) 
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 

(個人根保証契約の保証人の責任等) 
第四百六十五条の二 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。 

2 個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。

賃貸借契約の連帯保証人は個人根保証にあたります。そのため、契約書に極度額を定める必要があります。 

(公正証書の作成と保証の効力) 
第四百六十五条の六 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約は、その契約の締結に先立ち、その締結の日前一箇月以内に作成された公正証書で保証人になろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない。 

(公正証書の作成と保証の効力に関する規定の適用除外) 
第四百六十五条の九 前三条の規定は、保証人になろうとする者が次に掲げる者である保証契約については、適用しない。 

一 主たる債務者が法人である場合のその理事、取締役、執行役又はこれらに準ずる者

建物を事業で用いる場合、保証契約を公正証書でなすことが求められますが、この面倒を避けるために、代表者等を保証人に取ることも検討されます。ただし、上場企業の場合、公開会社が個人に依存することは望ましくないので、代表者が保証人になることは現実的ではありません。その場合、潔く公正証書を作るか、敷金を多く預かることで保証人を取らずとも未払いリスクを軽減するか、という選択になります。 

9.賃料と共益費

借地借家法 

(借賃増減請求権) 

第三十二条 建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。 

賃料と共益費はいずれも交渉事項なのですが、賃料については、増減請求が認められています。しかし、増減請求が認められるハードルは非常に高いです。そこで、次のような条項を加えることも工夫となります。 

賃貸人および賃借人は、維持管理費の増減により共益費が不相当となったときは、協議の上、共益費を改定することができる。 

法的には完全に無意味なのですが、賃借人の心理を考えると、物価高騰につき共益費だけ値上げに応じて、と働きかければ、応じてもらえる可能性が高まります。 

法的にどうこう、だけでなく、当事者の心理を推し測ることも法務部員の仕事です。頭でっかちな法務部員は要らないと言われますが、むしろ、法律に留まらない視野を備えた、頭が回る範囲が広い法務部員が求められています。