インターネットを使いこなす

1.法令調査は難しい

既存の法務部員の弱点は法令調査です。法務部員ならば法令調査はできて当然であるはずなのですが、法令調査ができる法務部員はごく一部に過ぎません。

法令調査が難しいのは、そもそもどの法律を調べればよいかわからないことです。法務の現場で受ける相談は、法律の条文を起点としていません。2023年6月16日から外部送信規律という規制が始まりました。これは、特定の事業を行っている事業者に対して、主として3rd party cookieと呼ばれる技術を用いている場合にはその事実を公表することを義務付けるものです。新聞などで報道され、企業はなんらかの対応をしなければならないというまでは周知されました。

自社は具体的にどのような対応を取らなければならないのか調査するのが法務部員の仕事です。ところが、おそらくプライバシーを保護するための法律だから個人情報保護法だろうとあたりをつけても、個人情報保護法にはそれらしい条文が見当たりません。結論としては、電気通信事業法(情報送信指令通信に係る通知等) 第二十七条の十二が該当する条文となるのですが、ここにたどり着くだけでも一苦労です。しかし、苦労しながらも、常に正しくあるために確たる根拠に行き当たることこそ法務部員の存在価値です。

2.条文の意味を読み取る力

法令調査では、条文の意味を読み取る力と、目的となる条文を探し当てる力の双方が求められます

法令の条文には癖があり、訓練を受けていなければ、意味を読み取ることはできません。実例として、令和6年4月1日から施行されている個人情報保護法を見ていきます。

(第三者提供の制限)第二十七条
個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。
5次に掲げる場合において、当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする。

一 個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合

(外国にある第三者への提供の制限)第二十八条

個人情報取扱事業者は、外国…にある第三者…に個人データを提供する場合には、前条第一項各号に掲げる場合を除くほか、あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得なければならない。この場合においては、同条の規定は、適用しない。

同法第27条第5項により「個人情報取扱事業者が利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」には「当該個人データの提供を受ける者は、前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする」となっているので、同条第1項「個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。」の適用はなく、その結果、委託の場合にはあらかじめ本人の同意を得なくても個人データを提供できることになります。

では、外国企業に利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託する場合はどうでしょうか。第28条第1項には「前条第一項各号に掲げる場合を除くほか、あらかじめ外国にある第三者への提供を認める旨の本人の同意を得なければならない。」とあります。第27条第5項は「前各項の規定の適用については、第三者に該当しないものとする」としており、第28条第1項は第27条第5項からみて「前各項」ではありません。さらに、第28条第1項後段は「この場合においては、同条の規定は、適用しない。」としています。「同条」は、「前条第一項各号に掲げる場合を除くほか」を受けているので第27条を指しており、第28条第1項には第27条第5項の規定が適用されないことが確認されました。その結果、外国の第三者に対する個人データの提供は、委託の場合であっても同意が必要という結論になります。これが、訓練を受けていなければ意味を読み解けないだろう条文の実例です。なお、第28条第1項は、前段だけでは結論がわかりにくいので、後段において確認的な文言が付記されているのだと思います。

3.実務における条文操作

司法試験受験経験者の多くは、条文の意味を読み取る力までは身につけています。不足しているのは、目的となる条文を探し当てる力です。これは、受験生の多くが条文操作を軽視しているからです。

しかも、実務では、司法試験よりも高度な条文操作が求められます。司法試験では六法が貸与され、条文操作も、多くの場合、同一の法律の範囲内で行えば足ります。しかし、実務では、下位法令まで読み解くことが求められます。外部送信規律の正体である電気通信事業法(情報送信指令通信に係る通知等) 第二十七条の十二にも「総務省令で定めるところにより」という文言があります。総務省令というのは「電気通信事業法施行規則」のことですが、省令ならば「~施行規則」、政令ならば「~施行令」、内閣府令ならば「~に関する内閣府令」といった一般的な命名ルールも把握しておく必要があります。

4.法令調査とインターネット

司法試験と異なり、実務では、インターネットが利用できます。「外部送信規律 根拠法令」などの検索ワードで検索すれば電気通信事業法にたどりつけますし、総務省令ならば「電気通信事業法施行規則」というタイトルだろうとあたりをつけて検索すれば同規則がヒットします。

インターネットは強力な武器です。インターネットがなかった時代の法務部員はどのように法令調査を行っていたのか全く想像がつきません。あるいは、インターネットがなかったから満足な法令調査を行えず、今の法令調査をしない法務部員ばかりという事態を招いてしまったのかも知れません。
調査を効率よく行うためには、これはどういうことだろう、という想像力が重要です。想像力を養うには、視野を広く持つこと、法律以外にも関心を持って、日々の情報収集を怠らないことが必要です。

いずれにせよ、法務部員が行う法令調査では、司法試験で求められたよりも高度な条文操作が求められますが、インターネットという強力な武器を使うことが許されています。新米法務部員でも、インターネットを駆使して法令調査を行うだけで既存の法務部員をごぼう抜きできます