1.なぜ反社会的勢力排除条項を設けるのか
法務部員の中には、反社会的勢力排除条項を設ける理由を条例で努力義務とされているからとだけ認識している者がたくさんいます。
しかし、法務部員は企業の一員で、企業の目的は利益の追求であり、法令の遵守はそのための手段です。遵法精神を養う目的はリスクの排除です。
法務部員は、反社会的勢力排除条項に限らず、全ての契約条項が勤務先の利益に結びつくように、血の通った仕事をする必要があります。
2.民法による契約解除
民法
第四款 契約の解除
(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。…
民法上は、契約において解除権を定めない限り、相手方の債務不履行がなければ契約を解除することができないことが原則です。
法務部員ならば、民法を見て、なぜ反社会的勢力排除条項が必要なのか、その実益はどこにあるのかを説明できるようになる必要があります。
3.反社会的勢力排除条項がなかったら
反社会的勢力排除条項を設ける必要性が最も高いのは、所有するテナントビルの1室を貸す建物賃貸借契約です。
勤務先が所有するテナントビルの1室に反社会的勢力の事務所が入居していることが発覚したとします。これを追い出すことができるでしょうか。
反社会的勢力だという証拠を掴めば追い出せると考える法務部員も残念ながらいると思いますが、そんな簡単な話ではありません。反社会的勢力にも賃借人の権利があります。
所有するビルに反社会的勢力のフロント企業が入居したとします。一見すると雰囲気の良い会社で、フロアの廊下を自発的に掃除し、目に入った通行人に愛想よく挨拶してくれて、家賃の滞納もありません。しかし、他のテナントは正体に気づいて自主的に退去してしまいました。未然にこの状況を想像して、フロント企業を追い出すことが法的に可能である状態を作っておくことが法務部員の仕事です。
民法に従えば、債務不履行はないので追い出せません。だから契約で、反社会的勢力だとわかれば問答無用で契約解除という条項を入れておくのです。契約解除しても居座られる可能性はありますが、建物明渡請求訴訟をすれば強制執行ができます。国の力で追い出せるということです。
4.なんとなく仕事をしない
法務部員はポリスではなくガーディアンです。勤務先が反社会的勢力排除条項を設ける努力義務に違反している状態を許さないことが仕事では断じてありません。勤務先が反社会的勢力によって被害を受ける場面を具体的に想像して、これを未然に防ぐことが法務部員の仕事です。法務部員は、自分がサラリーマンであることをくれぐれも忘れずに、手段と目的を履き違えないようにしてください。
その上で、なんとなく仕事をせずに、全ての契約条項に、勤務先にとっての意味を持たせてください。戦略法務という格好良い言葉が流行っていますが、そのような言葉を使わずとも、法務の仕事は常に戦略的です。