不要に邪魔にならないこと

1.法務部員は邪魔にならなければ良い

これからの法務部員には経営の資質が求められると言われています。もっとも、求められる経営の資質の程度は決して高くはなく、邪魔にならなければ良い、というのが企業の本音です。経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」における議論の中でも「日本の法務は、『ゲートキーパー』、いわばポリス、ジャッジであり、ビジネス部門からすると乗り越えなければならないハードルになっている。価値を創出するものと認識されていない。」という問題意識が示されています。

2.どうしても邪魔になる法務部員 

邪魔にならなければ良いというと簡単そうですが、法務部員は、リスクを確認するという役割上、邪魔になってしまいがちです。最も法務部員が邪魔になりやすいのは、契約書の添削の場面です。法務部員が契約書を添削している間、契約はスタートできず、事業部門の動きは止まります相手方のひな形に修正を加えれば、相手方法務による確認が入ります。そうなると、さらに長い時間、事業部門を止めることになります。このことを自覚して、止めるだけの価値がある添削を提供することが法務部員の職責です。そのため、例えば、誤字を発見しても、誤字であることが明らかで意味が誤解される余地がないならば、他に修正がない限り、敢えて見逃すことも、事業部門の手を止めないための工夫となります。 

にもかかわらず、多くの法務部員が、自分が仕事をしていることをアピールするために、実務的に意味がないばかりか法的にも意味がない修正を多数加えて、相手方の契約書ひな形を赤ペンまみれにします。相手方法務部員が、呆れながら無益な赤ペン修正を丸のみすれば、自社の要求が通ったと勝ったつもりになります。これは本当に邪魔です。 

3.意味がある仕事をする 

法務部員の中には、契約書添削において、なんとか自分の爪痕を残そうと、不要な条項を加える者がいます。 

当事者は、本契約に違反して、相手方に損害を与えた場合には、相手方に対し、損害の賠償をしなければならない。 

こんな条項がなくとも、民法上の損害賠償条項を根拠に損害賠償請求は可能です。明確な意図を持たずに法的に意味のない加筆をする法務部員は本当に邪魔です。 

せめて意味を残すならば次のようなものが考えられます。 

当事者は、本契約に違反して、相手方に損害を与えた場合には、相手方に対し、損害(相手方の弁護士費用を含む。)の賠償をしなければならない。

裁判実務では、弁護士費用として認められるのは、損害賠償本体の1割というのが相場です。それでは足りないので、この条項によって、弁護士費用満額も賠償してもらうことを約束します。もっとも、勤務先が裁判沙汰になるような損害を負うことが想定しがたいならば、この条項のために現場を止めることも邪魔です。 

法務部員がなすべきは、トラブル発生時に勤務先が負う可能性がある損害賠償額が青天井になるならば上限を設ける、逆に、勤務先に生じた損害を金銭的に評価することが難しいならば損害賠償額の予定を書き込む、などの意味のある仕事です。意味のある仕事のために現場を止めてしまっても、それは邪魔ではなく、必要なプロセスです。 

4.社内評価を勝ち取るためのテクニック 

多くの法務部員が、自分が働いているアピールをするために、契約書を赤ペンまみれにしていますが、社内評価という観点からもこれは下策です。経営層は、法務部員に騙されるほど愚かではありません経営者の視点からは、会社に貢献しているかどうかが全てで、真面目に働いているかどうかは不要な人員をクビにできるかできないかの判断に影響するに過ぎません。いくら働いているアピールをしても、真面目に仕事をしているようだが役に立つとは思えないから評価は横ばい、というのが関の山です。 

法務部員が添削を返す先は社内の事業部門です。相手方法務ではありません。これを利用して、添削の外において、相手方ひな形にはここに誤字があった、ここに無益な記載があった、ここに自社に有利な記載があった、しかし、いずれも一往復する価値はないので修正は不要です、といったコメントを事業部門に返すことが、社内評価を勝ち取るためのテクニックです。働いているアピールと現場の邪魔にならないように配慮することは両立可能です。