読み手は誰かを考える

1.懲戒処分通知書のひな形は役に立たない 

法務部員が起案する書面の中で、最も気が重いのは懲戒処分通知書でしょう。弁護士に起案を依頼することも多いのですが、残念ながら、弁護士と法務部員では書面で見据える先が異なりますから、私は法務部員が自分で起案することを強くお勧めします。 

懲戒処分通知書は、その名の通り、懲戒処分をする際に、対象者に対して交付する文書です。多くのひな形が出回っており、そこには「貴殿の~~という行為は、就業規則●条に違反するので処分する」というようなシンプルな理由のみが記載されていることが大半です。しかし、本気で勤務先の利益を求めるならば、これでは不足です。全く用を足しません。 

2.なぜ懲戒処分通知書を出すのか考える 

そもそも、法律上は、懲戒処分の際に、書面で通知する必要はありません。解雇の場合のみ、労働基準法22条により、労働者から求められた場合に解雇理由証明書の交付が必要になるだけです。そのため、就業規則に、懲戒処分は書面による、という記載がなければ、口頭で通知すれば足ります。 

にもかかわらず懲戒処分通知書を交付するのは、後のトラブルを避けるためです。後のトラブルというのは労働紛争です。懲戒処分通知書の目的が労働紛争を避けるためだとわかれば、自ずと、何を記載すべきかがわかります。 

3.読み手を想定する 

法部員が起案する書面は、読み手を説得するためのものです。だからこそ、論理的思考に基づいた説得力を備えた書面が求められます。さらに説得力を持たせるためには、読み手を想定し、狙い撃つことが望ましいです。 

懲戒処分通知書において読み手として想定すべきは、懲戒処分を受けた労働者ではありません。その相談先である弁護士です。相談を受けた弁護士が読んで、これは処分の有効性を争う価値があると判断されたら負けになってしまいます。労働紛争を避けることが目的であるからです。 

勝利条件は、弁護士視点で、この懲戒処分の有効性を争っても勝ち目はない、成功報酬が得られないので割りの良い仕事にはならないと思わせることです。弁護士が、割の悪い仕事を避けるために、相談してきた労働者に対して、ここまでのことをやらかしたならばこの処分は甘いくらいだ、反省しなさい、と説教をしてくれることが理想です。 

4.読み手を説得するためには事実の積み重ねが必要なのだが 

労働者の相談先である弁護士を説得するためには、労働者の悪質性を訴えることは下策です。それはあなたの感想ですよね、の一言で片づけられてしまいます。事実と評価の峻別を意識して、淡々と事実を積み重ねて、読み手が、結論まで読み進める前に、これはあかんと諦めるように、読み手の評価を誘導する必要があります。 

弁護士に労働紛争を諦めさせて労働者を説得させるために、これでもかと事実を積み重ねていく。それだけのことです。それだけのことなのに、世に出回っているひな形はあっさりしたものばかりで、事実の記載がないに等しい。それは、ひな形を作成するのは多くの場合弁護士で、ひな形で決着させることを求めておらず、その後、労働紛争になった際に必要となる最低限の記載さえあれば良いと考えているからです。これが、懲戒処分通知書は、弁護士に依頼せずに、法務部員が自分で起案することを強く勧める理由です。 

5.雑な仕事をしないために想像力を使う

私が処分通知書を起案する際には、A4用紙10頁という大作になることもあります。懲戒処分とは、制度の中では軽い処分であっても、対象者の一生を左右しかねない重要な手続です。ならば慎重に事実を積み重ねるのは当然であり、必然的に懲戒処分通知書も長くなります。A4一枚でも余白が多く残るなど、懲戒処分の本質も、なぜ懲戒処分通知書を起案するのかも考えていない、雑な仕事の典型例です。雑な仕事をする法務部員は無益ではなく有害です。 

有害な法務部員にならないために、常に仕事に目的や理由を持ち、次のステップとして、書面の読み手として誰が想定されるのかを考える必要があります。 

法務部員は、懲戒処分通知書に限らず、勤務先が不祥事を起こしてしまった場合の謝罪文を作成し、ときには、契約トラブルの際に相手方に送るメールの代筆もします。もちろん、契約書も日常的に作成します。それぞれの書面の読み手が誰なのかを想像しなければ雑な仕事になってしまいます。 

法務部員には想像力が必要だと言われることが多いですが、事実です。