風が吹けば桶屋が儲かる

1.法務部員の仕事は説得すること

経済産業省国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会における議論の中で日本企業の法務部門の実態、ネガティブな意見として「事業部は、法務部門対策のロジック作りがコストとなっており、ロジック作りを請け負うことがある。」というものが掲げられています(経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会について」2018年2月, p. 10)。これは恥ずべきことです。 

法務部員の本来の仕事は説得です。説得されることではありません。事業部門を説得して、その納得を得ながらリスク対策を行うことが法務部員の仕事です。時には、経営層を説得してリスクがあるビジネスを止めてもらうこともあります。 

2.雲雨傘から学ぶ説得力を支える論理的思考 

説得力を支えるのは論理的思考です。最近は、雲雨傘が論理的思考の例として多用されているようです。雲が出てきた、雨が降るだろう、傘を持っていこう、というものです。この判断の背後には、雲が出れば雨が降るという経験則(大前提)、雲が出たという事実の観測(小前提)、経験則に基づく推論(結論)、雨に備えて傘を用意するという合理的な対応策、という論理構造があります。法学を学んだ方が必ず身につけるはずの法的三段論法となんら変わらない思考様式です。雲雨傘はわかりやすい、法的三段論法も同じ理屈だ、だから法的三段論法を使えば説得力が生まれる、という結論は伝えられるのですが、それだけです。だから私は、雲雨傘には教材としての魅力を感じません。 

3.風が吹けば桶屋が儲かるから学ぼう 

風が吹けば桶屋が儲かる、ということわざは、ある事象が思わぬところに影響を及ぼすことがある、という意味です。バタフライエフェクトと似ています。このことわざは、突飛な思考の例として扱われてしまうこともあるようです。ところが、風が吹けば桶屋が儲かるは教材としてとても優れています。 

このことわざは

風が吹けば砂埃が立ち、

砂埃で目を傷つけてしまう人が増え、

当時は目が不自由になると琵琶法師になり、

琵琶には猫の皮を張るので猫が乱獲され、

猫に狩られるはずの鼠が生き残り、

増えた鼠が桶をかじるので、

桶が売れる

というロジックからなります。相当因果関係は認められずとも条件関係は認められるような気がする点で、これも立派な論理的思考です。 

それでも突飛な思考の例とされてしまうのは、論理が荒いからです。琵琶を増産したところで鼠が目立って増えるほどの猫が乱獲されるのか、など、一見して疑問点が多いです。教材としては、この疑問が重要なのです。 

琵琶に占める猫の皮を使ったものの割合、琵琶1つに対して猫何匹の皮が必要になるのか、見込まれる琵琶の増産量(必要となる猫の数)、猫の生息数(猫の減少割合)、などを調べていくと、意外と、琵琶を増やせば鼠が増えるのかも知れません。疑問とその検証方法の両方を思い浮かべられることは、法務部員として貴重な資質です。 

法務部員の仕事とは離れますが、強い風が吹くと予想されているので桶屋に投資しておくべきでしょうか、という意見を求められた場合、どのように答えるでしょうか。一笑に付すのでは法務部員失格です。法務部員ならば、砂埃による眼球への傷が原因となって視力が低下した人数を調べたり、目が不自由な人に占める琵琶法師の割合を調べたり、証拠を集めるべきです。その結果、風が吹くと琵琶が売れることまで確認できたとします。ならば琵琶業者に投資すべきことになります。これが論理的思考です。法務部員の武器は論理的思考であり、ならば投資の助言もできることもわかります。 

4.論理的思考とは 

論理的思考の目的である説得を実現するためには、仮定の積み重ねでは足りません。風が吹けば桶屋が儲かるというロジックを示しただけでは不足だということです。法務部の仕事は、考えるだけでなく、考えた結果、判断のために必要となった事実や証拠を集めてくることも含みます。このような証拠があって、このような事実があって、だからこのような相当因果関係があって、それを積み重ねると、風が吹けば桶屋が儲かることになる、と説得的に説明できること論理的思考の完成像であり、法務部員がなすべき仕事です。エビデンスを問われるようでは法務部員失格です。