利益衡量

1.法務部員には判断や意見が求められる 

大きな組織では、経営者がすべての判断をすることは不可能です。だからこれぞと見込んだ人材に局所的判断を委ねていきます法務部員も、判断を委ねる対象です。 

判断と言っても色々あり、対象に応じて判断を委ねられる者も変わります。例えば、事業を進めるかどうかという判断ならば、その事業の責任者によるか合議によることになるでしょう。法務部員が委ねられるのは法的な判断です。法的なメリット・デメリットを整理するだけでなく、法的にはこうすることが望ましいという結論を出すことが求められます。もちろん、結論は説得的なものでなければならず、そのためには、整理したメリット・デメリットも伝える丁寧な説明が必要です。説明の最後の結論がなければ、で、どうすればいいの、と問われることになります説得的な説明をしてから結論を出す、判断することも法務部員の仕事です。

2.法務部員は判断が得意なはず 

あまり意識されることがないのですが、実は法務部員は判断が大の得意です。法学部で利益衡量の訓練を受けているからです。裁判の判決書では、諸般の事情を総合考慮すると、という定型句があります。法律を学んだことがあれば親しんだフレーズでしょう。私は衡量という漢字を利益衡量以外で見たことがないのですが、意味を調べると、天秤にかけて重さを比べることだそうです。法律といえば天秤ですが、だから衡量です。 

利益衡量を学んでいない者が判断をしようとすると、自分が重視する利益がどれだけ大切であるかを力説し、反対利益の価値を低く評価します。天秤にかけるのではなく、綱引きの発想です。そのような発想は、反対利益を重視する者からの強い反発を招きます。 

利益衡量では、中立的な視点から双方利益を天秤にかけます。さらに、劣後させた利益への配慮を行います。法務部員ならば、どこかの試験で、「たしかに」反対利益は重要、「しかし」この利益はもっと重要、「また」どのようにすれば反対利益への配慮もなされる、といった答案を書いたことがあると思います。お決まりの答案作成フォーマットですが、これがバランス感覚に優れた判断を導けるのです。 

法務部員は事業部門ではないので、社内において中立的な立場になることが通常です。社内の判断においてはコーディネーターの立場になります。利益衡量は中立的な裁判官が判断を下すための考え方なので、法務部員が社内調整するにも役立ちます。 

3.中立を守るために全方位を説得する

裁判官はただ判決を下すだけでなく、判決書を書きます。その中では判決に至った理由が丁寧に説明されており、双方の言い分に理があった場合には、双方への配慮がなされています。だから判決書では、諸般の事情を総合考慮すると、というお決まりのフレーズが多用されます。 

法務部員は社内で裁判官と同じく中立の立場になるのですから、判決書を習って、関係者全員の利害関係に配慮して結論を出すように心がけてください。それが社内における自分の中立を守るために必要な技術であり、全方位を説得して調整するための技術でもあります。慣れ親しんだ比較衡量が武器になると自覚するだけで、法務部員の仕事がやりやすくなります。