1.法務部員にとっての花形の仕事
法務部員は会社を作ることが多々あります。日本では一部の企業にしか法務部がなく、そのような企業では、完全子会社や業務提携先との合弁会社を作ることが珍しくないからです。
特定の事業分野についてライバル企業と業務提携をした場合、明瞭会計で利益を分け合うために、出資比率を協議したうえで、合弁会社を作ることが行われます。
特定の事業部門が、単体で利益を出しているものの、他事業部門とのシナジーがないという場合、当該事業を分社化して、将来の売却に備えることがあります。
子会社を作るのは、往々にして大きなお金が動く場面なので、法務部員にとって花形の仕事だと言えます。
2.子会社の法務を担当できるか
弁護士法72条は、弁護士以外が、業として法律事件についての法律事務を行うことを禁止しています。契約トラブルや労働トラブルは、法律事件の典型例であり、その解決は弁護士にしかできない仕事です。
にもかかわらず、弁護士資格を有さない法務部員も、日常的に、勤務先の法律トラブルを解決しています。それが許されるのは、弁護士法72条は、他人の法律事件について扱うことのみを禁じていると解釈されているからです。法務部員は勤務先の一員であり、法務部員にとって勤務先は他人ではありませんから、そのトラブルを解決しても弁護士法72条に違反しないことになります。
ここで問題となるのが、親会社と子会社は別の法人格であるということです。つまり、親会社の法務部員にとって、子会社は他人です。親会社の法務部員が子会社の法律トラブルを扱えば弁護士法違反になります。
もっとも、法務部員のすべての仕事が、弁護士法72条に定める法律事務に該当するわけではありません。法律事務というのは、要するに、弁護士資格を持つ専門家でなければ扱えないほど難しい仕事のことです。裁判手続が典型例ですが、法的な意見書の作成も法律事務に含まれます。逆に言えば、専門家でなくとも扱える仕事ならば法律事務ではないので、親会社の法務部員が、これを子会社に提供しても、弁護士法違反にはなりません。専門家でなくとも扱える仕事の具体例について、法務省が「親子会社間の法律事務の取扱いと弁護士法第72条」というタイトルの書面において見解を示しています。ここでは、総じて「一般的な法的意見を述べる」だけならば問題ないと言われています。
一般的な法的意見を述べることを超えて子会社の仕事をするための知恵を絞ることも、親会社の法務部員の仕事です。最も簡単な方法は、親会社の法務部員が子会社の法務部員を兼任することですが、その際には労働者供給に該当しないように注意が必要です。
3.海外展開と有限責任
多くの日本企業は、海外展開を考える際に、直接進出することを避けます。ほとんどの場合、現地のパートナー企業を見つけて業務提携をするか、現地子会社を作ります。その主な理由は、リーガルリスクの回避です。
法律は国ごとに異なります。法律の勉強をすると主権という言葉を真っ先に学びますが、自分の国に適用される法律を自分の国で作れることこそが主権です。
日本企業の法務部員も、日本国の弁護士資格を持つ顧問弁護士も、日本の法律しか知りません。もちろん、取引相手となる国の法律もある程度は調査しますが、付け焼刃です。仮に日本の弁護士資格に加えてNY州においても弁護士資格を持っていても、インドネシアの弁護士ではありません。国際弁護士を自称する者は多いのですが、国際弁護士という資格は世の中に存在しません。
付け焼刃の法律知識で商売をすれば高確率で失敗します。日本法ではありえないルールに悪気なく抵触して、日本法ではありえないペナルティを負う可能性が高いということです。そのリスクが顕在化した際の被害を最小化するために現地子会社を設立します。
親会社と現地子会社は別の法人格を持ちます。現地子会社の社員(出資者という意味であり、日本法における株式会社における株主に相当する地位を想定しています)が有限責任であれば、現地子会社が大火事になっても、親会社には延焼しません。
4.法概念を学ぶ意味
子会社の法務部員を兼務するための労働条件を考えたり、現地法における出資者の有限責任を前提に現地子会社を設立したり、そのような知恵出しをすることが法務部員の仕事です。労働者供給、法人格、有限責任といった法概念を学ぶのは、知恵出しができるようになるためです。学問がそのまま実務に役立つ場面が多いことも、法務部員の魅力です。