はじめに

1.法概念は実務に直結している

法学部では、契約とは、自然人とは、といった法概念を真っ先に教えます。それは学習効率を求めた結果です

しかし、法概念が実務でどのように活かされるのか、具体例を知らなければ、やる気が起きないと思います。

ここでは、学習効率を追い求めて法概念を先に教えるだけでなく、読者のモチベーションを高めるために、実務において法概念の理解が求められる場面を紹介していきます。

以下は、なぜ法概念が必要となるのかの一般論です。初めに一読したうえで、個々の法概念を学んでください

2.社会に出ると法律を守ることが難しくなる

学生の間は、いくら法学部で法律を学んでも、それが役立つことはありません。個人レベルでは、人を殴ってはいけない、物を盗んではいけない、といった道徳さえ備えていれば、法律に抵触することは想定されないからです。

しかし、行動範囲が広くなると、道徳だけで法律との抵触を避けることが難しくなっていきます

運転免許を取らずに自動車を運転してはならない、というのは、一般常識になっています。しかし、夜間に自転車に乗る際にはライトをつけなければならない法律はどうでしょうか。知らない間に法律を破っている人もいると思います。自転車に乗る際にヘルメットを被っているでしょうか。心配な人だけ被れば良いと考えているならば間違いです。法律は努力義務を課しています。

会社員になると、法律を守ることはもっと大変になります。私はステルスマーケティングが優れた広告手法だとは思わないのですが、インターネット広告実務においてステルスマーケティングは当たり前のように用いられています。しかし、法改正によって規制されるようになりました。法改正を知らずに、これまで通りステルスマーケティングを行ってしまうと、行政処分の対象となります。

法務部員になると、ポスターやチラシ、WEBページの広告案を見せられて、それが法律に違反していないかチェックすることになります。法務部員以外には手に負えない仕事をするのが法務部員です。

3.すべての法律を把握することは不可能

2025年4月現在、電子政府の総合窓口のDB登録法令数は、現行法令数に限っても約9,000です。その全てを把握することは不可能です。

法務部員に求められるのは、法令を知っていることではなく、必要な法令を調査できる能力です。

4.民法を制するものは司法試験を制する

司法試験受験生の間には、民法を制するものは司法試験を制する、という格言があります。私は受験生時代、勉強時間の4割以上を民法に費やしていました。民法は出題範囲が広く、受験生のレベルが高いので、民法を苦手とした結果、相対的に沈んでしまうことを避けるためでした。

実務に出てから、民法の使用頻度が際立って高いことを知りました。民法以外の法律を読む際にも、一般法としての民法が適用されることが前提になっています。民法の考え方を理解していなければ他の法律を読むことはできません

司法試験では、残念ながら、実務で使うことがない法律も詳しく学ばなければいけませんが、法務部員としての実務を見据えるならば、勉強の対象は民法だけで足ります。会社法も必要になりますが、後回しで問題ありません。

5.条文を暗記する必要はない

司法試験では、条文の穴埋め問題が出題されるので、条文の暗記が必要だと勘違いする受験生がいます。しかし、出題者は暗記を求めているわけではなく、この条文が適用される場面ではどのような要素に気をつける必要があるのかの理解を問うています。

民法の条文数は1,000を超えます。全ての条文のロジックを個別に理解していくことは現実的ではありません。そこで、条文に共通する考え方を理解することが効率的で、それが法概念にまとめられています。だから法学では、真っ先に法概念を教えています。

6.法概念がわからなければ実務では通用しない

実務で求められるのは必要な法令を調査する能力ですが、法令調査では、条文の意味を読み取る力と、目的となる条文を探し当てる力の双方が求められます。条文の意味を読み取るためには、法概念の理解が近道です。

法概念を理解していなければ、条文の意味を理解するために、民法を中心とする関連性がある条文全てを読み直して理解し、法概念を抽出する作業を迫られます。結局法概念に辿り着くので、あらかじめ法概念を理解せずに法令調査を行うことは不合理の極みです。

7.論理的思考

法学では論理的思考も学びます。これも実務で必要になるためです。

論理的思考が身に付いていなければ法解釈ができないだけでなく、法務部員として必要な説得力も得られません。法解釈のために必要となる論理的思考はシンプルで、法的三段論法や因果関係の考え方を知れば足ります。しかし、説得力を得るための論理的思考を、言葉で説明することは難解です。それでも、身につけるために知識を蓄えることは不要であり、かつ早い段階で身につければ武器になります。そのため、法概念に加えて論理的思考も、入門段階で身につけてください。