1.自然人と法人は別人格
自然人というのは、人のことです。老若男女も立場も問わず、人ならば等しく自然人です。法人というのは、法によって権利義務の主体となることが認められた主体のことを言います。少しややこしい点として、法人イコール組織ではないことが挙げられます。個人事業主が法人成りすれば、株主1人、稼働しているのが代表者1人であっても法人です。
さらにややこしいのが、法人格という言葉です。これは、法的に権利義務の主体となりうる人格または資格を意味する言葉なのですが、法人格には、自然人と法人が含まれます。もっとも、仮に法人と法人格を混同してしまっても、実務上問題となることはほぼないと思われます。自然人は当然に法人格を有しているので、実務上、法人格が問題となるのは、法人になっているか否かの場面のみだからです。
余談ですが、2024年11月からフリーランス新法が施行され、ここでは、フリーランスか否かは、自然人か法人かに関わらず、人を1人でも雇っているかどうかから判断します。自然人であってもアシスタントを雇っていればフリーランスではありません。法人であっても個人事業主が法人成りして1人のままならばフリーランスです。これからの法務部員は、フリーランスの概念も理解する必要があります。
2.個人事業主の法人成り
自然人と法人の違いを理解するためには、個人事業主の法人成りを考えることが近道です。個人事業主という自然人が、わざわざ法人成りするのは、メリットがあるからです。このメリットを理解することが、法人の理解に直結します。
自然人と法人は別人格なので、自然人と法人との間の取引が観念できます。そのため、個人事業主が法人成りして、自分1人だけの法人を作ると、株主であり代表者である自然人との間で取引を行うことができるようになります。自分の会社に自分のお金を貸し付けたり、逆に自分の会社のお金を借りたり、というものです。
自然人と法人は別人格です。個人事業主である自然人が亡くなると、相続が発生します。相続が発生すると、契約の主体は相続人に移ります。法人では、代表者が死亡しても法人は無くなりません。契約の主体は法人のままです。事業承継の場面で、これはとても大きな意味を持ちます。自然人のままの個人事業主が亡くなってしまった場合を考えます。この場合、事務所の賃貸借契約や電話回線の権利義務の主体は相続人に移ります。アシスタントを雇っていて、事業を継いでくれる場合には、相続人の協力が必要になります。法人になっていれば、権利義務の主体は法人のままです。アシスタントが法人に雇用されていれば、何事もなかったかのように引き続き事業に従事できます。相続人も、法人をアシスタントに任せて株主として配当を受けることもできますし、アシスタントに株主の権利を売ることもできます。事業に成功して人を雇うようになった個人事業主が、相続を意識し始めて法人成りすることもあります。
また、法人は節税にも利用できます。高額な給与を得ていたり、個人事業主として巨額の利益を出していたりする場合、法人を設立して、自然人と法人との間で取引を行うことによって利益を法人に付け替えると、税金を抑え込むことができる場合があります。
さらに、法人の代表選手は株式会社ですが、株式会社には、株主有限責任という絶大なメリットもあります。
3.権利能力なき社団
自然人と法人の間には、権利能力なき社団というものがあります。その代表例はマンション管理組合です。マンション管理組合は、管理組合法人となることで法人になるのですが、これを選択しない場合には、法人ではありません。しかし、法人でないマンション管理組合も「団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定している」ならば、権利能力なき社団になります。権利能力なき社団に何ができるのかはケースバイケースですので、ここでは扱いません。ただ、銀行の法務部員になれば、権利能力なき社団名義での銀行口座を作ることを許すかどうか、許す場合の条件などを扱うこともあろうかと思いますので、ここでも軽く紹介しておきます。