1.法律独特の用語
意思能力と行為能力は法律独特の用語です。法律用語以外で聞くことがない単語でしょう。意思能力とは正常な意思決定ができる能力で、6歳くらいから身につくと言われています。民法第3条の2によって、意思能力を欠いた法律行為は無効となります。行為能力は、単独で法的に有効な行為を行うための資格で、民法第5条の反対解釈から、原則として成年になると手に入ります。契約が有効であるためには、意思能力も行為能力も、どちらも必要になります。
2.行為能力は意思能力の上位概念ではない
概ね6歳から意思能力があるとされ、原則として成人すると行為能力を得ることから、行為能力は意思能力の上位概念であると誤解してしまう恐れがあります。行為能力とは、行為をする能力ではなく行為をする資格であるときちんと理解することが重要です。
成年が飲酒して酩酊状態に陥ると、一次的に意思能力を失います。しかし、行為能力は失いません。また、成人の行為能力を制限するためには、民法第7条による後見開始の審判を受ける必要があります。認知症などの理由によって、意思能力が不十分になってしまっても、後見開始の審判を受けなければ行為能力はそのまま残るのです。酩酊状態や、後見開始の審判を受けていない認知症患者のように、行為能力はあるが意思能力がないという状態もあり得ます。
3.意思能力はあったりなかったりする
意思能力が厄介なのは、時々によってあったりなかったりすることです。事業部門が顧客と仲良くなるために一緒にお酒を飲んで、気分良く酔っぱらった顧客が、契約に口頭合意してくれたり契約書に印鑑を押してくれたりしたとします。この場合、高確率で、酩酊状態であったから意思能力が無かったとして、契約の無効を主張されます。ご高齢の方も、意識がはっきりされているときには意思能力があり、混濁しているときには意思能力がないということがあります。取引の際には、氏名や生年月日などを質問し、明確に回答できるかを確認することが求められます。本人確認ではなく、質問の理解の速さや回答の明瞭さなどを質疑を通じて確認します。
4.行為能力が欠けても法律行為は無効にはならない
行為能力は、未成年もご高齢の方も、どちらについても問題になります。また、行為能力が欠けた場合の効果は、意思能力が欠けた場合とは異なります。意思能力が欠けていれば、法律行為は無効です。そもそも、法律効果の発生に向けた意思がなかったと考えるからです。
行為能力が欠けた場合には、直ちに無効とはならず、取消が可能になります。法律効果の発生に向けた意思はあるものの、本人には単独で有効な法律行為を行う資格がないので、親権者や後見人等が本人に不利益だと判断した場合には、本人を保護するために取り消すことができます。
5.未成年者のインターネット取引
対面取引では、多くの場合、一見して未成年であると判断できます。高校生くらいになると一見しただけではわかりませんが、身分証を見れば確認できます。ところが、インターネットを通じた取引では、相手が未成年かどうかはわかりません。そのため、年齢確認を行います。民法第21条は、制限行為能力者(未成年者などの行為能力が制限された者)が、自らは行為能力者だという詐術を用いたときには、保護されないとしています。この条項が適用される可能性を高めるために、年齢確認の際に、年齢とともに生年月日を入力させ、両者が整合していることを確認することも、法務部員による工夫の一つです。
6.ご高齢の方の不動産取引
ご高齢の方と取引をする場合、認知症などの意思能力の問題に加えて、成年被後見人などの制限行為能力者かもしれないという問題があります。成年被後見人などになった場合、法務局に登記されることになります。そこで、不動産などの高額な取引を行う場合には、質疑応答を通じて意思能力の有無を確認するだけでなく、登記されていないことの証明書を取り寄せてもらうことなどが必要となります。
7.法務部員の役割
学生として民法の勉強をする際には、意思能力や行為能力は、試験で点数を取るために暗記しておくべき知識に過ぎません。しかし、法務部員になると、どのような場面で意思能力や行為能力が問題になるのかを想像し、対処することが求められます。そのためには、意思能力や行為能力の定義と、関連する民法の条文を、しっかりと理解することが必要です。