5. 法務部員の仮想敵 

1.仮想敵はAIと弁護士

社会が複雑になっていくに応じて、法務機能の重要性が高まっています。法務部員は売り手市場ということです。 

しかし、需要があれば供給もなされます。法務部員を目指す者にとって、仮想敵はAIと弁護士です。 

2.AIの特徴 

AIは、大量の知識を学習して、推論する人工知能です。 

AIに馬の写真と鹿の写真を大量に学習させれば、馬と鹿の特徴を学んで区別できるようになります。しかし、雄の鹿の写真ばかり学習させれば、角だけが鹿の特徴だと誤解して、雌の鹿と馬の区別がつかなくなる可能性があります。また、嘘の情報を学習させれば、それを疑うことなく信じてしまいます。自分で情報源を選べないことがAIの弱点です。 

AIによる推論は確率的なものです。学習によって、どのような結論となる可能性が高いと学んだら、その確率に従ってサイコロを振ります。そのため、同じ質問を連続して行えば、その度に異なった回答を返します。 

LLMと呼ばれる生成AIはきれいな文章を書きますがどの言葉の次にはどの言葉が登場しやすいというパターンを学習して連想ゲームをしているだけです。正確性は一切考慮していません。 

情報源を選べない、正確性を考慮しない、というのがAIの弱点です。常に正確な情報源を探し、わからないことはわからないと答える誠実な法務部員の敵ではありませんしかし、インターネット上で見つけたどこかの弁護士が書いた解説を鵜呑みにする法務部員はAIに駆逐されます。コストとスピードにおいて、AIは人間をはるかに上回るからです。 

3.弁護士の特徴

弁護士は法律の専門家です。弁護士にこれといった弱点はありませんが、法務部員と比較すれば、勤務先の事情に詳しくないこと、争いごとの解決に特化していること、が特徴です。 

勤務先の事情をよく把握したうえで、争いごとを避けることが法務部の仕事です。住み分けができるということです。そして、法務部員が優秀であればあるほど、弁護士の出番は少なくなります。 

4.定型的な契約書の添削を通じて得られるもの 

契約書の作成は、ひな形では対応できない場合にのみ発生する仕事です。法律の専門家である弁護士に依頼することもあるでしょう。 

しかし、法務部員の仕事の大部分は契約書の添削です。自社ひな形に対する相手方からの修正への対応が、最も発生頻度が高い仕事になります。 

法的に誤りがないひな形を作成することは当然の前提です。それでも、ひな形の特定の条項が修正されて返ってくる頻度が高い場合、当該条項はビジネスの実情に即していないのかも知れません。その場合、ひな形の修正をすべきとともに、法務部員はビジネスの実情を学びます。 

あるいは、修正されることが多い条項は、勤務先と相手方との利害対立が激しくなる箇所なのかも知れません。その場合、現場と相談しながら、契約ごとに、折れるべきか突っぱねるべきかを判断します。 

契約書の添削はビジネスの核心に触れる仕事です。法務部員は日常の契約書添削を通じて勤務先のビジネスへの理解を深めることができます。これは、弁護士に対する絶大なアドバンテージになります。 

5.生き残るための条件は単純 

法務部員が生き残るための条件は単純です。 

常に正確な情報源にあたり、わからないことはわからないと言う誠実な仕事をすること。 

日常業務を通じて勤務先のビジネスを理解すること。 

たったそれだけなのですが、恐ろしいことに、それができない法務部員がたくさんいます。弁護士は法務部員の上位互換であるかのように誤解して、弁護士が書いた解説をありがたがって正確な情報源にあたろうとしなかったり、その一方で、法務部員は法律だけ扱えばよいと誤解して勤務先のビジネスを無視した法律論を振りかざしたり。 

法務部員になりたい者が多いにもかかわらず、法務人材の不足が社会問題となっていることには理由があります。その理由を理解すれば、自然と当たり前のことができるようになり、AIに負けずに弁護士と住み分けられる法務部員になって生き残ることができます。