面接対策3 研修制度の充実

1.弁護士会の新人研修

私はある地方都市で弁護士になりましたが、弁護士会に登録する新人が少ないので、新人研修の内容は、先輩と一緒に事件を受任して仕事ぶりを見て盗め、そして学んだことをレポート提出しろ、というものでした。しかし、東京の弁護士会では、新人が多いので、後輩の面倒を見ながら仕事ぶりを見せて盗ませてくれる先輩を用意しきれず、止む無く、座学による新人研修が行われています。

地方都市の弁護士会における見て盗ませる新人研修と、東京の弁護士会における座学による新人研修のどちらが優れているかについて、弁護士の見解は一致しています。前者です

2.見て盗めは親切

私も先輩たちも、見て盗めと言われて育ちました。近年、なぜかこれが不親切と捉えられるようになってしまったようですが、私に言わせれば、こんなに親切な話はありません。先輩たちは見せてくれるのです

私は知恵を商品にご飯を食べていますが、守秘義務がありますし、一面のみを切り取られれば誤解を受ける物言いもしますから、込み入った打合せからは人を排除します。志ある後輩が私の仕事ぶりを見たいと言ってくれても、見せられない仕事が多いです。とても見て盗めなどと大らかなことは言えません。

見て盗むというのは、観察して、分析して、模倣して、検証して、修正する、高度に知的な作業です。要するにOJTのことですが、ミスをしてしまっても、先輩たちは教育コストだと割り切ってくれますし、すぐにフォローしてくれます

3.言語化することの困難と非効率

自分の仕事の意図を言語化することは困難です。深く考えているほど困難になります。私は言葉を商品にしていますが、3分の会話の意図を余さず説明するためには、背景事情、あり得る法律構成、予想される今後の展開と相手方の誘導方法など、3時間以上の説明が必要になるでしょう。文字に起こして読みやすく加工すれば1日仕事になります。

それでも私が自身の経験や技術の言語化を試みているのは、多数の読み手を想定しているからです。仮に言語化に100倍の時間がかかったとしても、100人の読み手に伝えられるならば元は取れるという計算です。毎年100人以上を新卒採用する企業が効率を重視すれば、自然と見せたい仕事内容が言語化されて研修制度が充実します。そうでないならば言語化は非効率ということです。

受講者が多ければ研修は効率的というのは、教える側の都合です。教わる側にとっては、研修はどこまでも非効率です。見て盗むならば3分で得られる情報を得るために、テキストを読むならば1時間、動画を視聴するならば3時間が必要となります。もちろん、見て盗んだ3分で得た情報を反芻するために時間はかかりますが、10倍の時間がかかっても30分です。テキストや動画ほどに非効率ではありません。

それでも、1000時間や2000時間の研修を行えば、ある程度のことは学べるでしょう。1年の労働時間が2000時間だとして、新卒1年目は研修のみという企業があることも、ある程度の力がつくまで現場に出さないという視点からは合理的です。それを実施するためには相当な企業体力が必要となることは言うまでもないでしょう。

4.研修制度出身者への期待値

見て盗んでものになった人間は、観察、分析、模倣、検証、修正ができるはずなので、放っておくだけで今後も成長し続けてくれると期待できます。試用期間を設定し、期間内での成長を見守る、見て盗めるかを判断する、というのは、極めて合理的な選抜方法です。

研修制度で学んだ人間の中にも、観察、分析、模倣、検証、修正ができる人間はいるはずです。しかし、その能力の有無の判別ができません。玉石混交の中で能力の下限を担保するためには、必要となるスキルごとに新たな研修を実施する必要があります。これは長期的なコストになります。研修制度というのは、従業員の自発的な成長につながるものではなく、その場しのぎに過ぎません

5.志望動機で研修制度の充実は禁句

職種によっては、一定程度のスキルがあれば、それ以上の劇的な成長は不要というものもあります。典型的なものは工場におけるライン作業で、手順に則った作業をベルトコンベアに追いつく速度で行えれば、それで足ります。この場合、一定期間の研修を終えればそれで足りますし、逆に、研修なしでいきなり作業をさせられることはありません。ライン作業では、OJTだからとミスは許されないからです。

法務部員には、絶えず成長が求められます。業務に影響する法改正があれば、法務部員は研修を実施する立場であり、研修を受ける立場ではありません。法務部員に求められるのは自発的に成長できる力であり、研修によってこれを培うことには矛盾があります

近年、研修制度の充実をうたう企業が増えています。これは、就職・転職市場が売り手市場となった中で、就職・転職活動を行っている人材の多くが研修制度の充実を求めていることに応えた措置です。広告宣伝としての研修制度であると言っても良いでしょう。

法務部員も研修を受けるのは、最低限の作法を身につけるためであり、研修を終えた後は自力で成長し続ける必要があります。

法務部員を志望しているのに、面接において「研修制度が充実していることに魅力を感じて応募しました。とだけ言うのは禁句です。研修がなければ成長できないと疑われる危険があるからです。

企業は、自社に利益をもたらしてくれる人材を求めており、法務部員も例外ではありません。いずれ自社に利益をもたらしてくれると期待して研修を受けさせることはあっても、研修を真面目に受けてくれることだけを期待しているわけでは断じてありません。それを理解することが面接対策の出発点です。

「法務部員としての経験がないので研修制度が充実していることに魅力を感じました。研修制度を利用して、早期に先輩方に追いついて、一刻も早く事業に貢献できるように頑張ります。」と伝えれば、研修制度はキャッチアップの手段であり、その後に勤務先に利益をもたらすことを見据えている、という評価になるでしょう。